「先生、原稿は?」
「あ...いや...」
「え?まだ出来てないのですか?」
「いや、あと僅か。次の原稿の取材をしていたので」
「まず、今のをお願いしますよ」
「同時進行することで、内容に厚みを増すんだ。次の原稿は2000円札問題についてだよ」
「ああ、あれ。うやむやの内に忘れられている気がしますね」
「そう、あれだけ大規模な偽札事件がね。調べれば調べるほど不思議なんだ」
「あ、あれは偽札といえるんですかね?」
「一応両替機を欺いた訳だから」
「あんな簡単な記号だけの紙を千円札に両替するなんて、ひどいバグですよね」
「実は、あの機械自体からして謎なんだ」
「というと?」
「あの両替機は全国のほとんどの自動販売機に一斉に付いた、それなのに
その販売元の会社の実体がない」
「え?でも、実体がなくて、どうして物が作れます?」
「あちこちの中小の会社の工場で作られた。代金を支払われた会社はない」
「そんな怪しい仕事を何故受けたのでしょう?」
「大きな会社経由だったり、市町村経由だったり、だが、辿っていくと闇に消える」
「闇...ある意味画期的な両替機でしたよね。2000円札を千円札2枚に両替するだけ」
「ああ、基本のユニットは同じだが、自動販売機にあわせて形状が多少異なるだけ。
本体の自動販売機を開けないと金が取り出せないという
単純だがセキュリティのしっかりした構造」
「2000円札回収機、とも言われましたね。
本体が2000円札に対応するよりも先に広がったし、
店員の数え間違いを防ぐためにレジ脇に置いていた店も沢山あった」
「そう、販売時期からして早過ぎる。2000円札自体が異例な短期間で発行されたのに」
「そう言われてみると。そういえば最近、2000円札を見なくなりましたね。
まぁ、こんな事件があれば」
「いや、事件の前くらいには、街で見かける事が少なくなっていた。
回収機に回収されたみたいに」
「で、あの晩全国一斉に偽2000円札によって両替機の千円札が回収された。
出来過ぎな話...」
「そうだろ、面白そうだろ」
「あ、こんな時間。先生、次の原稿も楽しみにしてますから、まずは今日のを。
表紙にも『氷解!!介護保険、財源の謎』て大きく印刷しちゃいましたから、
落す訳にいかないんですよ」
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